ぶどう棚の設置費用と相場感|費用を抑えるコツも紹介

執筆者:髙木 憂也
メガデル運営(株式会社タカミヤ)



ぶどう栽培において、安定した収量や品質を確保するために欠かせないのが「ぶどう棚」の整備です。しかし、実際に棚を新設・補修しようとすると、「どのくらいの費用がかかるのか分からない」「できるだけ安く抑えたい」といった声もよく聞かれます。

この記事では、ぶどう棚の設置にかかる費用の相場感と、予算を抑えるための方法について、初めて設置を検討する方にもわかりやすく解説します。




ぶどう棚とは何か:基本構造と目的



ぶどう棚(葡萄棚)とは、ぶどうのつるを高い位置で水平に広げて栽培するための骨組み構造物です。基本構造は「柱(支柱)」「梁(はり)」「棚線(ワイヤー)」から成り、一般的には鉄製の単管パイプを柱・梁に用い、屋根部分に格子状にワイヤーを張ります。

木製やコンクリート柱を用いる場合もありますが、単管パイプは耐久性・強度が高く現在主流です。また棚線(ワイヤー)には、ポリエステル製のエスター線(商品名「エクセル線」など)や亜鉛メッキ鋼線が使われ、30~50cm間隔で張られます。

こうした構造により、ぶどうの枝葉と房を支え、安定した棚面(キャノピー)を形成します。

目的・メリット: ぶどう棚を設置する最大の目的は、栽培効率と品質の向上です。

枝葉を地上高く広げることで日当たりと風通しが良くなり、果実全体に均等に光が当たり病害リスクを低減できます。

雨による湿度がこもりにくいため、カビ病などの発生抑制にもつながります。

また、人が棚下に立って作業できるため摘粒や袋掛け、収穫の作業効率が飛躍的に向上します。

果実が地面に触れず汚れないことや、均一な樹勢管理がしやすいことから果実の品質・収量が安定する効果もあります。

このように、ぶどう棚はぶどう栽培に欠かせない設備であり、栽培規模・品種や生育特性に応じて最適な設計を行うことが重要です。




設置費用の相場感



ぶどう棚の設置費用は、面積規模・資材の種類・施工方法・地域相場などによって大きく変動します。

農家がプロの施工業者に依頼して本格的な棚を新設する場合、10アール(=1反=約1,000㎡)あたり数百万円規模の初期投資が必要になるケースもあります。

例えば滋賀県の報告では、従来型のぶどう棚は10aあたり約350万円もの費用がかかり、初期投資の高さが新規参入の障壁になっていると指摘されています。

また広島県でも、棚設置に約207万円/10aの資材費・工事費が必要で、面積拡大の大きな障害となっているとされています。

ただし実際の費用は条件によって幅があります。

標準的な平棚(単管パイプ柱+ワイヤー)の新設であれば、10a規模で材料費が約30~50万円、施工費が約20~40万円、合計50~90万円程度が一つの目安です。

広い面積を一度に施工する場合は単価が下がることもあります(経済スケール効果)。

一方、傾斜地への設置や地盤整備が必要な場合、支柱材質を鉄から木・コンクリートに変える場合、あるいは豪雪地帯で耐雪仕様を強化する場合などはコストが上振れします。

地域によっても人件費や資材調達コストが異なり、山梨・長野・岡山など主要産地では施工業者の経験が豊富な反面、繁忙期の発注は費用が割高になる傾向があります。




目安となる費用例(10aあたり)


内容金額(目安)
材料費(柱、梁、ワイヤーなど)約30~50万円
工事費(基礎工事・組立作業)約20~40万円
合計約50~90万円

※上記は一般的な規模・仕様で業者施工した場合の概算です。棚面積が広がると1aあたりの単価は下がる傾向があります。一方で小規模だとかえって割高(小面積では1aあたりコスト増)になることも指摘されています。




主な価格変動要因


支柱の材質・仕様: 鉄パイプ製柱が一般的ですが、コンクリート柱や木柱は初期費用を抑えられる反面、耐久性や補修頻度に差が出ます。耐雪型の太いパイプや、ブレース(筋交い)の有無も費用に影響します。

地形・地盤条件: 傾斜地での施工や、圃場の整地・排水対策が必要な場合、基礎工事費用が増加します。

施工時期: 春先~初夏の繁忙期は業者の予約が集中し費用が高騰しがちです。オフシーズン(冬場)の施工依頼は比較的割安になる傾向があります。

地域差・業者選定: 地域ごとの人件費水準や業者間競争状況で価格差があります。同じ条件でも複数社から見積もりを取ると数十万円規模の差が出ることもあります。




自分でDIY施工した場合のコスト



コストを抑えるために、ぶどう棚を自分でDIY施工する農家や愛好家もいます。DIYの場合、業者への工事費を節約できる一方、資材購入費と施工の手間が発生します。以下は10a規模を自力施工した際の参考コストです。


内容目安コスト(10a)
材料費(柱・梁・ワイヤー・ジョイント金具など)約20~40万円
道具レンタル・消耗品(穴掘り器具、モルタル、ボルト類 等)約2~5万円
合計約25~45万円

※上記はあくまで目安で、市場価格の変動や調達ルートによって変わります。例えば単管パイプ(48.6mm径)の相場は長さ2mで1本1,000~1,500円程度、エスター線(ワイヤー)は100mあたり数千円程度です。10aの棚を組むには柱約50~70本・梁や桁材・張り巡らすワイヤー総延長数百m・各種クランプ(金具)多数が必要となり、これらを合計すると材料代だけで数十万円規模になります。

実際には、自治体の試算でDIY簡易棚の資材費は約115万円/10aに達した例もあります。従来350万円/10aかかる棚を、自力施工で約1/3のコストに抑えたケースですが、その代わり延べ300時間/10aほどの施工労働が必要でした。このようにプロ施工に比べ大幅なコスト削減は可能ですが、そのためには相当の労力と技術習得が求められます。

DIY施工のメリット: 最大のメリットは費用の削減です。材料を安価に仕入れ、自分や家族・仲間の労力を投入することで、業者依頼では高額になりがちな初期投資を半減以下に抑えることも可能です。また施工を通じて構造を把握できるため、今後のメンテナンスや小修繕を自分で行いやすくなるという利点もあります。

DIY施工のデメリット・注意点: 自力施工にはいくつかのリスクも伴います。まず、水平出しや剛性確保の精度が不十分だと、後から棚全体の傾きやグラつきを補修する羽目になりかねません。特にぶどう棚は果実重量や風雪荷重に耐える強度が必要なため、設計・施工の段階で正確さが求められます。また大きな労力と時間を要する点も無視できません。10a規模では穴掘り、基礎固定、パイプ切断・組立、ワイヤー張りまで含めると数百時間規模の作業になり、農閑期の作業計画が必要です。さらに高所作業や重量物の取扱いもあるため安全管理も重要です。DIYに挑戦する際は、可能であれば経験者に助言を仰ぎ、少人数では困難な工程では知人同士で協力したり、必要に応じて部分的に業者の力を借りる柔軟さも検討しましょう。




費用を抑えるためのポイント


ぶどう棚の設置費用を少しでも抑えるために、以下のような工夫や取り組みが有効です。


1. 中古資材の活用: 廃業農家や耕作放棄園から出る中古の単管パイプ・金具・ワイヤーなどをリユースすることで資材費を大幅に削減できます。実際、ネットオークションや地域のJAを通じて中古単管を安価に入手する農家もいます(例:パイプ数十本セットが数万円程度)。品質に問題ないか確認した上で使えば、新品購入費を節約できます。

2. 農閑期に施工を行う: オフシーズン(冬場)は施工業者の手が空きやすく、工事費の値引き交渉がしやすい時期です。繁忙期の春~初夏はどうしても割増料金になりがちなので、スケジュールに余裕があれば剪定後の冬季に工事を計画しましょう。また、資材も需要が落ち着くオフシーズンにまとめ買いすると安く入手できる場合があります。

3. 近隣農家との共同施工: 同じ地域でぶどう棚を設置・改修する予定がある場合は、共同で作業したり大型機械をシェアすることでコストダウンが図れます。例えば支柱を立てるための穴掘り機やセメントミキサーを共同レンタルすれば、個別に借りるより安く済みます。複数の農家で資材を一括購入してまとめて割引を受ける、といった方法も有効です。

4. 複数業者から見積もりを取る: 業者施工を依頼する場合、最初から一社に決めず相見積もりを取りましょう。施工条件が同じでも、業者ごとの積算や利幅設定によって提示価格に差が出ます。実際に3社ほど見積依頼したところ数十万円規模の差があったという事例もあります。地元業者に限定せず、近隣地域も含めて信頼できそうな施工会社を探すのがおすすめです。

5. 補助金・融資制度を活用する: 国や自治体、JA等の支援制度を最大限活用しましょう。後述するように、ぶどう棚の資材費や施設整備に対して国庫補助が受けられる制度や、JAによる低利の設備資金融資があります。これらを利用すれば実質的な自己負担額を減らすことができます。

6. 長期視点で設計する: 初期費用を節約しすぎて低耐久の資材を使ったり簡易な造りにすると、数年後に補修・建て直しが必要になり結果的に割高になる恐れがあります。多少初期費用が上がっても亜鉛メッキ処理されたパイプやステンレス金具を使う、支柱の埋め込みや基礎をしっかり施工する等、10年以上保つ設計にすることで長期的なトータルコストを下げられます。

以上のポイントを組み合わせ、費用対効果の高い計画を立てることが重要です。補助金の活用や見積もりの比較検討など、手間を惜しまず情報収集することが、結果的に賢い投資へとつながります。




補助金・融資制度



ぶどう棚の新設・改修に利用できる補助金や低利融資の制度が各種あります。2024~2025年時点で注目すべき代表的な支援策を紹介します(制度名や要件は正式名称で記載し、最新情報は各主管機関に確認してください)。

国の主な補助制度(農林水産省)

産地生産基盤パワーアップ事業(収益性向上・生産基盤強化対策) – 果樹など高収益作物への転換や規模拡大を支援する国の補助制度です。ぶどう棚やパイプハウス等の資材購入費が対象となり、資材費の1/2以内が補助されます。対象は意欲ある農業者や団体で、新規にぶどう栽培を始める場合や既存園地の大幅な改植・施設導入が条件です。都道府県ごとに「産地パワーアップ計画」に基づき実施されており、申請には見積書や施工計画の提出が必要です。補助上限額は各県や事業内容によって異なりますが、例えば山形県寒河江市ではこの事業を活用した市の支援として「10アールあたり上限160万円(補助率1/2)」が設定されています。

果樹経営支援対策事業 – 果樹産地の体質強化を目的とした国の補助メニューで、新植・改植や園地整備に対する助成があります。例えば「棚栽培への転換」に必要な資材費に対し10万円/10aの定額補助が受けられるケースや、改植による未収益期間の経営支援(金利補給や交付金)などが含まれます。これらは年度ごとに内容が見直されるため、最新の交付要綱を確認しましょう。

自治体の補助制度の例

山梨県「醸造用甲州産地育成強化事業」 – ワイン用ブドウ品種「甲州」の振興を目的とした県独自補助です。2024年度までの時限措置で、新たにぶどう棚または垣根を設置して甲州を植栽する場合に10aあたり20万円の助成が受けられます(既存棚の活用や修繕の場合は5万~10万円/10a)。ワイナリーとの契約栽培など条件がありますが、山梨ならではの特色ある支援策と言えます。

長野県 – 長野県でも産地パワーアップ事業を活用した補助を展開しており、地域農業団体(JAなど)を通じてぶどう棚資材の導入支援を受けられます。例えば中野市では令和7年度事業として募集が行われており、対象者は「ぶどうの新規就農者または規模拡大する農家」、補助率1/2・資材費が対象、労務費は補助対象外など細かな要件が公開されています。自治体によっては独自に上乗せ補助を実施する場合もあります。

岡山県・市町村 – 岡山はぶどう産地として市町村単位の支援も充実しています。例えば和気町では「施設園芸事業補助」としてぶどう棚の資材費の1/2(上限100万円)を助成する制度があります。また笠岡市など他の自治体でも、新規就農者向けに果樹棚設置費用を支援するメニューや、農協を通じたリース導入補助などが用意されています。申請条件(最低栽培面積や販路要件など)は地域ごとに異なるため、各市町村の農政担当部署に問い合わせてみてください。

金融支援(融資・貸付)

JAの低利融資制度: 資金不足の場合はJAバンクや日本政策金融公庫の農業融資を検討します。各県のJAでは施設整備向けの「農業近代化資金」「営農設備資金」などの融資メニューがあり、政府系制度資金を活用することで据置期間つき・低金利(場合によっては無利子)の貸付が受けられる場合があります。たとえば農林公庫の「アグリマイティローン」や各JAの営農ローンでは、ビニールハウスや果樹棚の設置資金として長期返済の融資枠が設けられています。融資審査には事業計画や収支見通しの提出が必要ですが、補助金と併用して自己負担を平準化する有効な手段です。

農業系財団の助成金: 地域の農業振興財団や民間の農業支援団体による助成プログラムもあります。例えば大規模果樹園の省力化設備導入に助成する財団や、新規就農者の設備投資を助ける企業スポンサーの助成金などです。公的補助に比べ規模は小さいものの、応募できるものは積極的に申請すると良いでしょう。

補助金の活用上の注意: いずれの制度も公募期間・申請期限が定められており、年度当初〜中頃までに募集が締め切られることが多いです。補助金は予算枠が限られるため、計画段階で早めに情報収集し、必要書類(見積書・施工図面・事業計画書など)を揃えて申請に臨むことが大切です。また補助対象外経費(人件費や汎用機械の購入費など)は自己負担になります。各制度の要綱を熟読し、不明点は窓口に相談しながら活用してください。

以上のように、国・自治体・JAの支援策を上手に組み合わせることで、ぶどう棚設置の経済的ハードルを下げることが可能です。費用面の不安を減らし、将来のぶどう栽培の発展につなげていきましょう。





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出典:ブドウ棚
出典:単管を用いたぶどう棚の製作 - YouTube
出典:ぶどう棚の設置費用と相場感|費用を抑えるコツも紹介 | FARM NAVI
出典:Microsoft Word - 最終【シャインマスカット栽培の手引き】
出典:Insitu水素吸蔵合金薄膜作成評価装置によるMgおよびPd薄膜の作成
出典:葡萄 棚の中古品・新品・未使用品一覧 - Yahoo!オークション
出典:令和7年度産地生産基盤パワーアップ事業補助金の取組農業者等の募集について | 長野県中野市
出典:〖寒河江市〗補助金・助成金:「ぶどうの生産拡大、生産継続を支援します」 | 起業・創業・資金調達の創業手帳
出典:[PDF] 農業経営支援策 活用カタログ 2024 - 農林水産省
出典:山梨県/醸造用甲州産地育成強化事業について
出典:農業支援情報/和気町ホームページ
出典:笠岡市園芸総合対策事業費補助金交付要綱
出典:[PDF] ディスクロージャー JAえひめ未来の現況2024
出典:【寒河江市】補助金・助成金:「ぶどうの生産拡大