オーガニックと6次産業化─これからの農業収益を考える

執筆者:髙木 憂也
メガデル運営(株式会社タカミヤ)


日本の農業は、少子高齢化や労働力不足に直面する中、これまでのやり方を抜本的に見直す必要に迫られています。本記事では「有機農業の市場拡大と導入支援策」と「農産物流通の新たな展開(直販・EC・6次産業化)について、実践事例や政策、技術の進展を交えながら、これからの農業を担う方々に役立つ情報をお届けします。



有機農業の市場拡大と導入支援策



化学農薬や化学肥料に頼らず環境調和型で生産される有機農業は、近年ますます注目を集めています。日本政府は2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」の中で、2050年までに耕地面積の25%(約100万ヘクタール)を有機農業に転換するという大胆な目標を掲げました。

2020年時点で日本の有機JAS認証面積は全耕地の1%未満に留まると推計されており課題は大きいものの、この目標達成に向けた動きが加速しています。農林水産省の資料によれば、有機食品市場規模は2009年の1,300億円から2017年に1,850億円、2022年には2,240億円へと約8年間で4割増加し、また有機栽培の取組面積も過去10年で約5割増えるなど、緩やかながら成長傾向が見られます。


北海道・九州を中心に有機JAS農地が拡大



特に北海道の牧草地や畑作地、九州の茶畑を中心に有機JAS農地が拡大しており、消費者側でも「週に1回以上有機食品を利用する人」が32.6%(2022年調査)と着実に増えてきています。健康志向や食品安全志向の高まり、SDGsへの関心などを背景にオーガニック需要は今後も拡大が見込まれる市場と言えるでしょう。

実際、世界に目を向けると過去10年で世界の有機食品市場は2倍の約12兆円規模に達し、有機農業の取組面積も2倍に増加しています。欧米諸国では有機食品が食品市場の5~10%以上を占める国も登場しており、日本も今後追随する可能性があります。


オーガニックビレッジ


こうした中、日本政府や自治体も有機農業の導入支援策を講じています。その一つが「オーガニックビレッジ」と呼ばれる地域ぐるみの取組です。生産から流通・消費まで地域全体で有機農業に取り組む市町村を認定・支援する仕組みで、2025年までに100市町村、2030年までに200市町村創出する目標が掲げられました。

2021年度補正予算から専用の支援事業が始まり、現在45道府県131市町村がオーガニックビレッジとして動き出しています。具体的な支援内容は、有機栽培技術の研修、人材育成、堆肥施設整備への助成、有機農産物や有機加工食品の販路開拓支援、消費喚起イベントの開催など多岐にわたります。


補助金・交付金の制度も拡充


また、有機転換期の収量減少や手間増に対する補助金・交付金の制度も拡充されてきました。例えば令和7年度(2025年度)予算案では「有機農業推進総合対策事業」として、生産者の技術習得や経営安定、需要拡大のための支援策が盛り込まれています。

民間でも、有機農産物の流通プラットフォームや有機専門の直売所ネットワークづくりなど、新たな試みが始まっています。例えば農水省と連携して有機農業体験ツアーや生産者と消費者の交流イベントを企画する企業も登場し、消費者の有機農業への理解促進と需要喚起に取り組んでいます。これらの支援策を上手く活用すれば、初期ハードルが高いと言われる有機農業への参入もスムーズになり、環境に優しく付加価値の高い農業経営への転換が実現しやすくなるでしょう。




農産物流通の新たな展開(直販・EC・6次産業化)


農産物の流通形態も大きく変化しています。従来は生産者→市場→小売という流れが主流でしたが、近年は産地直売やEC(ネット通販)など、生産者自らが消費者に直接販売するチャネルが拡大しています。全国各地に農産物直売所が整備され、新鮮で個性ある農産物を直接買い求める消費者が増加しました。

農水省の調査によると、農産物直売所の年間販売額は1兆0879億円(令和4年度)で前年度比4.0%増加、農産物の加工品販売額も1兆0128億円(同年度)で6.2%増とそれぞれ成長しています。直売所と加工品を合わせると、いわゆる6次産業化による売上は農家の新たな重要な収入源となっており、国内農業関連ビジネスの約半分を占める規模に達しています。

生産者自身が加工品の開発やブランド化に取り組み、高付加価値の商品として販売する事例も増えています(ジャムやジュース、米粉パン、地域特産を使った菓子類など)。これにより農閑期の収入創出や規格外品の有効活用にもつながり、農家の経営安定化や地域活性化に寄与しています。


農産物のEC販売が急成長



インターネットの普及にともない農産物のEC販売は急速に拡大しています。産直ECサイト「ポケットマルシェ」は2025年3月時点で登録生産者約8,600人、ユーザー数約84万人に達しており、前年と比べて利用者が大きく増加しています。「食べチョク」も2024年9月に登録生産者1万軒、ユーザー数100万人突破、出品点数は約5万点を超え、多様な商品ラインナップを提供しています。

こうしたプラットフォームではサブスク型定期便や詰め合わせセットの拡充により、約8割がリピーターとなるなど、生産者–消費者間の継続的な交流が強まっています。

またJAグループが運営する「JAタウン」もEC事業を強化中です。2024年度の流通額は約30億円から、2025年度にEC300億円規模へと成長させる構想を掲げています。さらに「JAタウンマルシェ」などリアルとオンラインのクロス施策も展開し、全国16のJA直販ショップが東京駅での即売会を開催、ECとリアル双方のシームレスな販路拡大を図っています。このように、ECや直販流通の多様化により、中間マージンを抑えつつ安定収益を実現する新たな販路が確立されつつあります。

産直ECの利点は、生産者が自ら価格を設定できること、消費者の反応をダイレクトに把握できること、そして中間マージンを圧縮できることです。一方で、受注・発送や販促の手間がかかる、一定量以上の出荷には物流体制の整備が必要などの課題もあります。

そこで行政や民間のサポートにより、初心者でもネット販売を始められる研修や補助も行われています。

「#元気いただきますプロジェクト」等、コロナ禍で打撃を受けた農家を支援するため農水省が実施したキャンペーンでは、インターネット販売手数料の補助などが行われ、多くの農家がオンライン販売に挑戦しました。結果として「通販で産地直送の野菜を買う」という消費スタイルが一般消費者にも浸透しつつあります。


生産と加工・販売を一体化する6次産業化



さらに、生産と加工・販売を一体化する6次産業化の動きも引き続き注目されています。地域の農産物を使った新商品の開発や、農家自身が飲食店・観光体験を提供するケース(農家レストランや農泊など)も増えました。自治体によっては6次産業化への補助金や専門家の派遣支援を行っており、新規就農者や若手経営体が意欲的にチャレンジしています。

また、生産者団体(JA等)による共同加工施設の設置や、食品メーカーとの提携によるブランド化事例もあります。こうした流通改革により、消費者は産地や生産者の顔が見える商品を手に入れられるようになり、農家側も付加価値向上による収益アップや販路多様化で経営リスクの分散が図れます。

今後はデジタル技術を駆使した需要予測に基づく出荷計画の高度化や、シェアリングエコノミーによる流通効率化(例:農機や加工設備の共同利用、物流の共同配送)など、さらなるイノベーションも期待されます。生産から販売まで一貫して目配りする“攻めの経営”が、これからの農業収入拡大の鍵となるでしょう。




農業の未来をつくるのは、現場の一歩から


有機農業、そして新たな流通の形や人手不足対策は、いずれも日本の農業が直面する構造的な課題に対する「具体的な解答」となり得るものです。今後の農業は、単なる生産活動にとどまらず、テクノロジーや地域資源との連携、そして消費者との接点づくりを通じて、より広がりと可能性を持った産業へと進化していくでしょう。

日々の営農の中で、こうした情報の一つひとつを「自分の経営にどう活かせるか?」という視点で見ていただければ、今日の一歩が将来の大きな成果につながるかもしれません。小さな変化から始めることで、持続可能で魅力ある農業への道が、確かに開けていくはずです。




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出典:農林水産省|みどりの食料システム戦略(2050年 有機農業25%目標)
出典:SmartAgri|【2024年版】有機農業の最新傾向
出典:農林水産省|有機農業・有機食品に関する消費者意識等の可視化
出典:SmartAgri|世界の有機食品市場動向
出典:農林水産省|オーガニックビレッジ制度
出典:農林水産省|令和4年度6次産業化総合調査結果