農家が始める“加工品づくり”|6次産業化のリアルな収支と工夫

執筆者:髙木 憂也
メガデル運営(株式会社タカミヤ)



農産物の価格下落や規格外品の廃棄ロス、販売先の限界——。こうした課題に直面する施設園芸の農家たちの間で、注目を集めているのが「6次産業化」、すなわち自ら生産した作物を加工・販売する取り組みです。自家製のジャムやドライ野菜、ピクルスなど、工夫次第で農家ならではの商品づくりが可能に。そして今、SNSや産直ECの普及により、販路の壁も少しずつ低くなっています。

とはいえ、「加工品って何から始めれば?」「許可や設備はどうすれば?」と戸惑う農家も多いはず。この記事では、施設園芸を営む個人農家に焦点を当て、2025年現在の最新情報と成功事例をもとに、6次産業化の実践ノウハウを紹介します。




1. 個人農家が加工品づくりに乗り出す背景・理由


近年、多くの小規模農家が自ら生産した農産物を加工・販売する「6次産業化」に取り組むようになっています。その背景には、農産物のみの出荷では収益が不安定なため収益源の多角化を図りたいという思いがあります。例えば、生で1本100円にしかならないダイコンも、漬物に加工して6袋分(1袋250円)にすれば合計1200円になり、約12倍の付加価値を生むという理屈です。農家自身が加工・販売まで手掛けることで生産者価格の安定や収入向上が期待でき、国も農家の所得向上策として6次産業化を推進してきました。

また、規格外品の有効活用も大きな理由です。施設園芸で育てた果実野菜には形や傷の問題で市場に出せない「B級品」が必ず発生します。味は問題ないそれらを廃棄せず活かすため、ジャムなど加工品にして長期保存・販売するケースが増えています。ジャムは砂糖を加えて煮詰め瓶詰めすることで保存性が高まり、季節外でも販売できる利点があります。需要トレンドとしても、コロナ禍以降は家庭での食事機会増加に伴い加工食品ニーズが高まり、農家自身がネット販売などで直接消費者に届ける動きも一段と進みました。

さらに、かつては「農家手づくり」というだけで珍しさから売価がつきましたが、現在は参入者増で差別化の重要性が増しています。大手メーカー品と価格で競うのは難しく、素材の良さや生産者の物語といった「こだわり」を伝えて付加価値を感じてもらう必要があります。総じて、農産物の価格低迷や市場競争の中で、小規模でも高付加価値戦略をとるべく加工品づくりに乗り出す個人農家が増えているのです。




2. 加工品販売に伴う設備・許認可などのハードルと対策



加工品販売における最大のハードルは食品衛生法上の営業許可です。農産物を加工して販売するには、扱う商品の種類ごとに所轄保健所から食品営業許可を取得しなければなりません。例えばジャムやピクルスを常温保存できる瓶詰めにする場合は「密封包装食品製造業」、漬物なら「漬物製造業」、クッキーやドライフルーツなど菓子類は「菓子製造業」といった許可区分があります。2021年6月の法改正で許可業種が再編され、新たに追加・統合された分類もあるため、既存の許可を持つ場合でも最新制度の確認が必要です。各許可には設備基準が定められており、加工所の設計・施工前に保健所へ図面を持ち込んで相談することが推奨されています。

許可を取るための加工施設の基準としては、調理場を家庭の台所など他の部屋と完全に仕切ること、食品専用のシンク(原料洗浄用と器具洗浄・消毒用で二槽以上)や従業員用手洗い設備の設置、加熱器具上部に換気フードを備えること、食材や器具を清潔に保管できる戸棚、十分な容量の冷蔵冷凍庫(温度計付き)の設置などが求められます。これらを満たせば自宅の空き部屋や納屋を改装して簡易な加工所として許可を得ることも可能です。実際、小規模農家の場合は新築でいきなり大規模加工所を構えるのはリスクが大きいため、既存建物を活用して必要最低限の改装から始めることが推奨されています。

衛生管理面では、営業許可施設ごとに食品衛生責任者を配置する義務があります。調理師や栄養士等の資格がなくても、各県で開催される6時間程度の養成講習を受講すれば食品衛生責任者の資格を取得可能です。昨今はHACCP(ハサップ、食品の安全を確保するための国際的な衛生管理手法)に沿った衛生管理も原則すべての事業者に求められており(小規模事業者は簡易版で対応可)、定期的な衛生研修への参加や記録の習慣づけも重要です。

初期設備については、必要最低限の投資と汎用性が鍵になります。マイナビ農業の事例では「小さい農家は最初なるべく家庭用機器で代用し、専用機械の購入は後回しに」と助言されています。例えば真っ先に用意すると良いものとしてラベル用プリンターが挙げられます。耐水性の顔料インク対応プリンターがあれば、少量から原材料表示シールや商品ラベルを内製化でき、季節や商品に合わせ柔軟にデザイン変更も可能です。調理機器は家庭用で代用しつつも、食品の保存管理設備には投資が必要です。具体的には大容量の冷凍ストッカー(目安300L以上)やチルド帯対応の業務用冷蔵庫(作業台付きで-3~-2℃設定、150L程度)を備えることで、仕込み素材や完成品を安全に保管できます。近年は瓶詰めより軽量なスタンドパック入り商品が好まれる傾向があり、内容物の真空封入や煮沸殺菌を可能にする脱気シーラー(真空パック機)もあると加工品の幅が一気に広がります。例えばある農家ではバジルの実をオイル漬けにした限定商品を真空パックで販売し即日完売するなど、小ロットでも衛生的で魅力的な商品づくりに成功しています。このように設備投資は段階的に、行政の事前相談や研修を活用しつつ進めることで、ハードルとなる制度要件をクリアしやすくなります。



3. 売れやすい加工品のジャンル・価格帯・市場トレンド


施設園芸で得られる野菜・果物を原料とした人気の加工品には、ジャム類、ピクルス(漬物)、ドライフルーツ・乾燥野菜、ジュース・シロップ、ソース・ドレッシング類など多彩なジャンルがあります。売れ筋商品にはいくつか共通点があり、第一に商品コンセプトが明確でターゲットのニーズに合致していることが挙げられます。大手との差別化のため、地元産素材を活かし生産者の物語や地域性を込めた商品は共感を呼びやすく、市場で埋もれにくい傾向があります。




五色のミニトマトジュース「Sun Pallet」(茨城県・有限会社大地)

カラフルな見た目とそれぞれ異なる風味で、トマトジュースが苦手な人にも手に取ってもらえる工夫をしたヒット商品。このように視覚的な魅力やストーリー性は重要で、SNS映えする商品は販促面でも有利です。実際、写真映えする美しい商品写真や、生産背景を伝えるエピソードが消費者の共感を呼び「思わず買いたくなる」動機につながっています。


画像参照 出典:いばらき6次産業化商品 | 茨城をたべよう

健康志向・付加価値トレンドも押さえておきたいポイントです。近年は「無添加」「砂糖不使用」「グルテンフリー」などキーワードへの関心が高く、それを満たす商品は支持を得やすい傾向があります。例えば、横江ファーム(埼玉県)の「かける小松菜」は小松菜を素材に化学調味料無添加で作った新感覚ソースで、料理にかけるだけで栄養アップできる健康志向ソースとしてヒットしました。また、岐阜県の農業生産法人PLUS株式会社はコメ品種ハツシモ100%使用のグルテンフリーパスタを開発し、世界農業遺産の地域資源を活かした商品として評価を得ています。このように機能性や食習慣の多様化に対応した商品(例:ヴィーガン対応の野菜スイーツ、低糖質ジャム等)は市場で注目されやすく、小規模でも niche なマーケットで存在感を出せるでしょう。

価格帯については、適正価格の設定が重要です。手間ひまや希少性を考慮すると単価は大手市販品より高めになりがちですが、消費者が「その価値がある」と思える範囲に収める必要があります。高すぎると敬遠され、安すぎると利益が出ないどころか「安かろう悪かろう」の印象を与えかねません。売れている商品は概ね、小瓶ジャムなら500~800円前後、ピクルスやシロップもワンコイン~千円程度など、贈答や自家用に手が届きやすい価格に設定されています(地域特産品の餅菓子を6~8個入り330円と安価に設定しリピート購入を狙った例など)。ただし価格競争に巻き込まれないよう、農家自身のブランド価値を高め「多少高くてもこれを買いたい」と思ってもらう戦略が求められます。そのためには商品の独自性や品質はもちろん、パッケージデザインや使い方提案、販売チャネル戦略まで含めたトータルな工夫が必要です。実際、売れている6次化商品の多くは商品そのものだけでなく販売方法やストーリーの打ち出し方にも創意工夫が見られます。小規模農家の場合、生産量や販路は限られますが、その分インターネット直販やイベント販売で熱心なファン客を掴み、リピート購入で支えてもらうことで持続的に売上を伸ばす事例も増えています。




4. 個人農家向けの補助金・支援制度(全国規模)


個人規模の農家でも活用できる公的支援制度は多数あります。
ここでは全国規模で利用可能な代表的な補助金・助成策を紹介します(※自治体ごとに公募時期・要件が異なる場合があります)。


  • 農業の6次産業化支援事業補助金 – 自ら生産した農畜産物の加工・流通・販売に取り組む事業者を対象に、機械設備や施設整備費を補助する制度です。各都道府県が国の交付金に基づき実施しており、対象設備は野菜のカット工場や農産物直売所、農家レストランなど多岐にわたります。補助率や上限額は自治体によりますが、採択されれば加工所の改修費用等の負担軽減につながります。

  • 小規模事業者持続化補助金(商工会議所管轄) – 常時従業員20人以下の小規模事業者(個人事業主含む)が対象で、販路開拓や商品開発に要する経費の2/3(上限50万円)を補助します。農家も対象となり、チラシ作成費用、パッケージデザイン費、機械装置の導入、ウェブサイト作成費など幅広い用途に使えるため、個人農家が加工品のマーケティングや簡易な設備導入をする際によく活用されています。実例では、梅農家が当補助金を活用して加工場を機能回復・アップデートし、新商品の有機梅干しを開発して販路を海外まで拡大したケースがあります。

  • 事業再構築補助金(経済産業省系) – ポストコロナ期の中小企業の思い切った業態転換を支援する大型補助金です。農家が新たに加工品製造や農産物カフェ事業などに乗り出す場合も要件を満たせば対象となり得ます。採択されれば設備投資や建物改装費等に対し数百万円規模(事業規模によっては数千万円まで)の補助が受けられるため、本格的な加工場新設や商品の大量生産設備導入を目指す際に検討する価値があります。但し公募ごとに事業計画のブラッシュアップや認定支援機関(中小企業診断士等)のサポートが必要で、競争率も高いため、計画を練り上げて臨む必要があります。

  • ものづくり補助金(経済産業省系) – 中小企業の生産プロセス改善や革新的サービス開発を支援する補助金で、農家による加工品開発にも利用可能です。こちらは機械装置やシステム導入費用の2/3(上限750~1,250万円程度)が補助されます。例えば、新たな加工ライン導入や急速冷凍機の購入、高性能乾燥機の導入など、革新的な製法・品質向上につながる設備投資に活用できます。6次産業化を目指す農業法人等がこの補助金を活用した例もあり、事業再構築補助金と並んで有力な資金支援策です。

  • その他の支援制度: 新規就農者向けの「農業次世代人材投資資金」(就農直後の経営安定のため年間最大150万円を最長3年交付)や、各自治体の独自支援(設備導入補助、6次化推進ファンド、公設加工施設の利用支援など)もあります。農水省の「農林漁業成長産業化ファンド」を活用し、民間企業と連携して加工事業を拡大した事例も報告されています。また、経営継続補助金(コロナ禍での農業継続支援)など期間限定の公募も適宜行われています。補助金は情報収集が鍵ですので、地域の農業改良普及センターや商工会議所に相談し、自身の計画に合った制度を紹介してもらうとよいでしょう



5. SNSや産直ECを活用した集客・販路開拓の成功事例



デジタルを駆使した直販は、小規模農家にとって販売チャンネル拡大の切り札になっています。実例として、静岡県熱海市の新規就農農家・錦織慎さん(だもんで農園)は、当初出荷していた地元直売所では高齢農家
が格安で野菜を並べる中で採算が取れず、「価格競争に陥らない場で戦おう」と決断しました。そこで利用したのがフリマアプリのメルカリと産直ECのポケットマルシェです。メルカリでは当初、低価格で出品すれば即完売するものの利益が薄く、価格を上げると「いいね」は付くが売れ残るという経験をしました。その中で、単に安さで売るのではなく商品のこだわりや生産ストーリーを丁寧に伝え、適正価格でも「あえて買いたい」お客さんを掴むことが大事だと悟ったといいます。実際、メルカリには安さ重視の層と質重視の層が二極化しており、値下げすればすぐ買う顧客はクレームも出やすかったのに対し、適正価格で購入する層はコミュニケーションもスムーズでリピーターになりやすかったとのこと。

一方、ポケットマルシェ(ポケマル)では、生産者しか出品できない信頼感から「多少高くても生産者直送の確かなものを買いたい」顧客が多く、やりとりも非常に温かいものだったといいます。例えばトマトに割れがあった際も、「美味しくいただきました」と寛容で、生産者と消費者が双方向に交流できる特徴があります。錦織さんは現在、レモンやミニトマト、加工品をポケマル等で販売し、ファン客を着実に増やしています。このようにSNSや産直アプリを活用することで、生産者は価格ではなく価値で勝負できる顧客層にリーチできるのです。

SNSそのものを活用した成功事例も多数報告されています。例えばInstagram等での情報発信では、畑の日常風景や栽培過程を写真・動画で紹介しファンを増やしている若手農家がいます。ある20代農家夫婦は種まきから収穫・出荷準備までをVlog形式で発信し、1年でフォロワー8,000人超を獲得、フォロワーへの定期野菜ボックス販売で売上の大半を占めるまでになりました。また加工品とセット販売のアイデアで成功した例として、中部地方のトマト農家が新鮮なトマトと自家製トマトジャムをセット販売しました。SNS投稿でジャムを使ったレシピ動画なども発信したところ、「生と加工品を一緒に楽しめる」と好評を博し、大ヒット商品となったそうです。このケースではSNSでファン化したフォロワーがそのまま購買者となり、セット商品が飛ぶように売れたとのことです。

また、食べチョクなど他の産直ECでも注目すべき成功例があります。食べチョクでは生産者ごとのこだわりやストーリーを前面に出したページ作りができ、2023年には全国9,300軒超の生産者の中から佐賀県のある農家が「食べチョクアワード」総合1位に選ばれています。こうしたプラットフォームで評価される農家は、SNS等も駆使して消費者とのコミュニケーションを図り、顔の見える関係づくりによって固定客を掴んでいる点が共通しています。中には「84歳のおばあちゃん農家がネット販売に挑戦し成功した」例も報告されており、年齢や規模に関係なく、熱意次第でチャンスを広げられる時代と言えます。総じて、SNS発信と産直ECを組み合わせることで、個人農家でも全国のニーズとダイレクトにつながり、自慢の施設園芸作物を加工品という形で付加価値を付けて届けることが可能になっています。小規模ゆえの小回りの良さを活かし、ファンづくりと商品開発を両輪で回すことが成功への鍵と言えるでしょう。




まとめ


加工品づくりは一朝一夕に利益が出るものではありませんが、地道な工夫と発信を積み重ねることで、着実にファンを増やし、収益の柱を築くことができます。特に施設園芸で収量や品質が安定しやすい作物を扱う農家にとって、6次産業化はロス削減とブランドづくりの好機とも言えるでしょう。

まずは小さく始めてみる。そして自分の「こだわり」と「物語」を商品に込めて届ける。その一歩が、農業の未来を変えていくかもしれません。




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出典:小さい農家が加工を始めるのに必要なもの〖ゼロからはじめる独立農家#18〗|マイナビ農業
出典:6次産業とは?農産物加工で農業と産業をつなぐ|食品開発OEM.jp - 株式会社丸信
出典:なぜ農家はジャムを作りたがるのか。農家の作った果物の行き先について考えてみた。|ゆず
出典:
農作物加工所開設の手引き。身の丈に合った六次産業化の始め方を実践農家が解説|マイナビ農業
出典:バイヤーから見た! 売れる6次化商品のポイント | AGRI JOURNAL
出典:売れる6次産業化の商品には特徴があった〖3つの事例を紹介〗 | あぐりマッチ
出典:小規模事業者持続化補助金で実現する農業の魅力を生かした6次産業化事例:梅農家の成功
ストーリー

出典:[PDF] 6次産業化の商品事例集 - 農林水産省
出典:直売所をやめてメルカリ・ポケマルへ。熱海の第一号新規認定農業者のネット販売戦略。 |錦織慎さん/だもんで農園/静岡県熱海市 | 思いが伝わる直販プラットフォーム。農家・漁師のみなさまはこちらから|ポケットマルシェ
出典:SNSを活用した農業ブランディングの始め方|初めての農家がゼロからファンを増やす方法 | ロロント株式会社
出典:〖2025最新〗農業で活用できる補助金・助成金一覧 – 助成金サポート.JP