NEW

農業現場の害獣対策最前線!被害傾向と最新技術

執筆者:髙木 憂也
メガデル運営(株式会社タカミヤ)



野生動物による農作物被害は全国で依然深刻な問題です。令和5年度(2023年度)には農作物被害額が約164億円に達し、前年度から増加しました。シカやイノシシなどによる食害は農家の営農意欲を削ぎ、耕作放棄や離農の一因となっています。特に個人農家や新規就農者にとって、地域の慣習や最新の技術情報が不足しがちな害獣対策は大きな悩みの種でしょう。日本の農業における主な害獣の種類と地域別の被害傾向、現場で導入されている駆除・防除機器の効果、導入コストの目安と補助制度、SNSやニュースで話題の新技術、そして各地の成功事例まで、幅広く掘り下げて解説します。適切な対策知識を身につけ、地域ぐるみで被害軽減に取り組む一助になれば幸いです。


害獣の種類と地域別の被害傾向



農作物被害をもたらす主な害獣としては、シカとイノシシが全国的に被害額・被害面積ともに突出しています。令和5年度の統計では、シカによる被害額は約70億円、イノシシは約36億円にのぼり、この二種で被害額全体の約6割以上を占めます。続いてサル(ニホンザル)、アライグマ、ハクビシン、クマ、ノウサギなどが挙げられ、これらが残りの被害を構成しています。

農村部の被害の約7割はシカ・イノシシ・サルによるものとも言われ、これにネズミやクマ類が加わります。一方、都市近郊ではカラスやハトといった鳥類やハクビシン・アライグマなど中型哺乳類の被害報告が増えており、地域によって加害動物の顔ぶれが異なる点に注意が必要です。


地域別の傾向を見ると、まずシカ被害は北海道が突出しています。北海道はエゾシカが大量に生息するため、全国のシカ被害額の7割超を占め(令和3年度で約44億円)ており、他の地域を大きく引き離しています。本州でも岩手県や兵庫県などにシカ被害が多いものの、その規模は北海道ほどではありません。イノシシ被害は西日本で相対的に高く、令和3年度では福岡県と広島県が各約3億円(全体の8%ずつ)でトップ、次いで愛媛県が約2.2億円(6%)となりました。九州北部から中国・四国地方にかけてイノシシによる被害が大きく、関東以北でも局所的に発生しています。サル被害は中山間地域で目立ち、長野県(約6,800万円、全国の9%)、山口県(約6,100万円、8%)、和歌山県(約4,400万円、6%)が被害額上位でした。サルは果樹や野菜への食害が多く、山際の集落で警戒が必要です。


外来種であるアライグマとハクビシン(※ハクビシンは特定外来生物ではないが、人里に適応した外来哺乳類)も近年被害が増えています。全国のアライグマ被害額は年々増加し、令和4年度は約5億円(前年より+0.4億円)に達しました。関東や関西の平野部を中心に生息域を拡大しており、たとえば茨城県では令和4年度に被害額1,500万円超を記録しています。ハクビシンも都市近郊で目撃例が増加し、東京都内ではアライグマ・ハクビシンに関する相談件数が2022年度に3,500件を超えました。ハクビシンは雑食かつ高い順応性を持ち、屋根裏や空き家にも侵入・繁殖するため、農村と都市の双方で要警戒害獣となっています。


このように、地域ごとに主要な害獣は異なります。北海道ではエゾシカ、本州山間部ではシカ・イノシシ・サル、里地里山の周辺ではアライグマ・ハクビシン、都市近郊ではカラスなど鳥類と中型獣、といったように被害パターンが分かれます。各地域で被害実態を把握し、それぞれの害獣に適した対策を講じることが重要です。


導入されている駆除・防除機器とその効果


農業の現場では、多様な駆除・防除機器が開発・導入されてきました。代表的なものとして電気柵(電柵)、センサーカメラ、忌避剤、捕獲わな(箱わな・くくりわな等)、そして近年注目されるドローンがあります。それぞれの概要と効果を見てみましょう。



  • 電気柵(電気フェンス)
    イノシシやシカ対策の基本兵器ともいえるのが電気柵です。地面に支柱を立て、周囲に電線を数段張りめぐらしてバリアを作り、バッテリーやソーラーで通電して侵入を防ぎます。動物が触れると電気ショックで撃退する仕組みで、適切に設置すればかなり高い効果を発揮します。実際、電気柵を設置した圃場では被害が激減し、地域ぐるみで柵を維持管理することで被害ゼロを達成した例もあります(例えば三重県伊賀市の実証ではサル被害が「ほぼ解決」し、シカも大幅に低減しました) 。ただし効果維持には日常的なメンテナンスが不可欠です。草が柵に触れて漏電すると効果が落ちるため、下草刈りや電圧チェックを継続する必要があります。また、設置初期に隙間があると侵入癖をつけさせてしまうため、適切な高さ・段数で隙間なく張ることが重要です。電気柵は比較的安価で導入しやすい対策ですが、後述の補助制度なども活用して正しく導入・維持することが求められます。

  • センサーカメラ(トレイルカメラ)
    赤外線センサーで動体や熱を検知し、自動撮影するカメラです。夜間の野生動物の行動パターンを把握するのに有効で、防犯カメラとしても利用されます。最近は通信機能付きで、撮影画像を携帯通信網でクラウド送信し、AIが写った動物の種類を自動判定してスマホに通知する製品も登場しています 。例えばあるシステムでは、あらかじめ設定した時間に撮影された画像をAIが解析し、イノシシ・シカ・サル・クマのいずれかを識別して結果と写真をメール送信します 。これにより、害獣の出没をリアルタイムで把握でき、夜間見回りの負担軽減や迅速な駆除対応に繋がります 。センサーカメラ単体でも、獣道に設置しておけば出没時間帯・経路がわかるため、効果的な罠設置や追い払い計画に役立ちます。加えて、撮影された野生動物の映像は地域の注意喚起にSNSで共有されたり、捕獲チーム内で情報共有する際にも有用です。センサーカメラは以前は高価でしたが、近年1台数万円からと手頃になり(簡易なものなら1万円台も)通信費も月数百円程度の格安SIMプランで運用可能なため 、新規就農者でも導入しやすいツールとなっています。

  • 忌避剤
    害獣が嫌がる臭いや味を利用して寄せ付けないための薬剤です。市販の忌避剤には、唐辛子エキスなど辛味成分を利用したもの、クマやオオカミなど天敵の尿臭を模したもの、腐敗臭や刺激臭のあるものなど様々なタイプがあります。例えばイノシシ用の忌避剤「しし○○」は特殊な臭気成分を配合したもので、粉末やペレット状にして畑の外周に撒くと侵入を抑制できます。価格は製品によりますが、2kg入りペレット剤が3,500円前後、設置型の忌避ブロック(5m範囲用)が2,200円程度など、比較的安価です 。手軽に使える反面、持続期間が短い(雨で流れたり臭いに慣れられたりする)ため、定期的な補充が必要です。また個体によっては効果が薄い場合もあり、あくまで補助的手段として電気柵等と組み合わせて使われます。

  • 捕獲わな
    直接個体数を減らすには箱わなやくくりわななどの捕獲器具が欠かせません。箱わなは檻の中にエサを置いて誘引し、入ったら扉を自動で閉めて捕らえる仕組みです。イノシシやシカ用の大型箱わなから、アライグマ・ハクビシン用の小型箱わなまでサイズも様々です。くくりわな(足くくり)は針金製の輪を地面に設置し、踏ませて足に絡め取る罠です。近年はICT技術と組み合わせ、スマート捕獲わなも登場しています。たとえば「Web連動型囲いわな」では、センサーで侵入を検知し設定した頭数が入った時点で自動的に囲いを閉鎖、同時に関係者へメール通知する仕組みがあります。また、わなの作動を通信で遠隔操作したり、かかったかどうかをカメラで確認して通知するシステムもあります 。これらにより毎日見回りに行かずとも捕獲状況を把握でき、労力削減と迅速対応が可能になります。罠自体の効果は設置場所とエサ次第ですが、適切に仕掛ければイノシシやアライグマの捕獲に有効です。行政による駆除事業では捕獲頭数に応じた報奨金(例:イノシシ1頭あたり数千円~1万円程度)が支給される場合もあり、こうした制度と組み合わせ地域の有害獣個体数を減らすことが重要です。

  • ドローン(無人航空機)
    最新技術として期待されるのがドローンの活用です。ドローンは上空から広範囲を監視・追い払いでき、人が立ち入れない場所にも飛んでいける利点があります。農研機構(NARO)や企業による実証が各地で進められており、いくつかの活用方法が試されています。ひとつは追い払い用途で、ドローンにスピーカーやレーザー装置を搭載し害獣を驚かせて追い払う方法です。NTT東日本グループなどは、鳥獣が嫌がる緑色レーザー光を照射する装置「クルナムーブ」をドローンに搭載し、カラス等の鳥類を広範囲で追い払う実験を行っています 。音響装置で爆音や猛禽類の鳴き声を流してイノシシ・シカを山へ追い返す試みもあります。また、サーモグラフィ(熱赤外線)搭載ドローンで夜間に上空からイノシシやシカの生息位置を探知し、効率的に追い込み猟や囲い込み捕獲を行う計画も進んでいます 。さらにドローンを使って人が踏み入りにくい広大な山林の見回りを省力化したり、集落周辺の放棄果樹の有無や柵の破損箇所を点検する実証も行われています 。こうしたドローン技術はまだ実験段階のものも多いですが、成功すれば地形に左右されない広域対策として有望です。ただし飛行には法規制遵守や十分な操縦スキルが必要で、当面は自治体や専門業者主体での運用が中心となるでしょう。

以上のように、害獣対策の機器は多彩であり、それぞれ効果と弱点があります。電気柵や捕獲わなで物理的に侵入・捕獲しつつ、センサーやカメラで見えない夜間の動きを可視化し、忌避剤やドローンで行動をコントロールする——複数の手段を組み合わせることで相乗効果が期待できます。一方、どんな優れた機器でも人間の管理が行き届かなければ十分な効果は発揮できません。地域の実情に合った道具を選び、継続的な見回り・点検やデータの共有によって最大限の効果を引き出すことが大切です。


導入コストと補助金・支援制度


次に、こうした対策を講じる際の導入コストと利用できる補助金・支援制度について整理します。個人農家にとって費用面のハードルは高い場合もありますが、国や自治体の支援策を活用することで負担軽減が可能です。


  • 電気柵の費用
    規模や仕様によりますが、おおまかな目安として周囲100~200m程度(0.5~1ha規模)の畑を囲う簡易電気柵セットで5~10万円前後、周囲400m(約1ha)対応の本格的な製品で10万円強、周囲2,000m対応の大型セットでは30万円台といった価格帯です 。例えば乾電池式で周囲400m(1ha分)対応の2段張り電気柵セットは約11万円、ソーラーバッテリー式で周囲2,000m対応のものは約34万円といった実売例があります 。加えて、設置に用いる支柱・ワイヤー・ゲートなど部材費や、人件費(自力設置ならゼロですが業者に頼むと別途費用)がかかります。維持費としては、電源が商用電気やソーラーであれば月数百円の電気代・バッテリー交換費程度で済みます 。草刈りや部材交換の手間も見込む必要がありますが、電気柵は初期投資が比較的低額で維持費も少ないため、補助金を活用すれば個人でも導入しやすい対策です。
  • センサーカメラの費用
    暗視対応のトレイルカメラは1台あたり数万円で購入できます。安価な機種(SDカードに記録する簡易タイプ)は1万円以下からありますが、防水性や耐久性、画質などを考慮すると2~3万円台の製品が主流です 。通信機能付きカメラの場合、本体価格がやや上がり5~10万円程度のものもあります。通信費は、カメラ専用の携帯SIM契約が必要な場合で月額数百円~数千円です。例えば低容量データ通信なら月300円前後のプランもあり、通信量を工夫すれば月数百円でリアルタイム監視を運用可能との報告もあります 。クラウドサービス料込みの高機能カメラはランニングコストが月額数千円となるケースもありますが、こちらも自治体による実証事業で貸与を受けたり補助対象となる場合があります。総じて、センサーカメラは導入・運用コストが下がりつつある機器といえ、被害の多い地域では複数台を設置しても費用対効果は高いでしょう。
  • 忌避剤の費用
    忌避剤は種類によりますが、概ね数千円単位で購入できます。粉末・ペレット状で畑の周囲に撒くタイプは1袋数千円(例:2kg入り約3,500円 )、地面に差す筒型や吊り下げる固形タイプは1個あたり1,000~3,000円程度が目安です 。広範囲をカバーしようとすれば複数購入が必要になるため、1シーズンで1~2万円分使うケースもあります。雨が降ると効果が落ちるため、頻繁に補充する必要があり、ランニングコストは馬鹿になりません。そのため、忌避剤だけに頼るのではなく他の防御策と組み合わせてスポット的に使うのが現実的です。
  • ドローンの費用
    ドローンは機体価格がピンキリですが、農業用や追い払い用にカスタマイズされたものは数十万円から数百万円することもあります。例えば市販ドローンにレーザー機器を搭載する高度なシステムでは開発費もかかるため、個人農家が単独で導入するのはまだ現実的ではありません。現在は自治体や企業が実証実験用として導入している段階で、一般普及にはもう少し時間がかかりそうです。ただしドローンのレンタルサービスや、地域営農組合が共同所有してオペレーターが運用するといった形で、今後コスト分担して導入する可能性もあります。価格面では今後の技術の成熟と需要拡大による低廉化に期待が寄せられています。

補助金・支援制度

害獣対策には国や自治体からの補助制度が多数用意されています。代表的なものとして鳥獣被害防止総合対策交付金(農林水産省)があります。これは市町村やJAなど地域協議会が行う被害防止策に対し、経費の1/2以内など一定の範囲で国が負担する仕組みです 。
例えば鳥獣被害対策実施隊(専門の駆除チーム)の活動費、新規の防護柵設置、先進的なICT機器導入(スマート捕獲技術の実証等)について、1自治体あたり上限200万円(取り組みによっては100万円)程度まで定額補助が受けられる場合があります 。この交付金は自治体が窓口となり、地域ぐるみの計画を立てて申請・執行されます。また、各都道府県や市町村単位でも個別の補助制度が充実しています 。例えば埼玉県日高市では、電気柵など防護柵の購入費用の1/2(上限2万円)を補助しており、3万円の柵購入なら1.5万円、5万円の購入なら上限の2万円が支給されます 。茨城県つくば市でも電気柵設置者に補助金を交付しており、多くの自治体で購入費の1/2補助(上限数万円)という制度が見られます 。自治体によっては補助率1/3や、金網柵やネットにも適用など条件が異なるため、地元役所の農政担当・鳥獣対策担当に確認するとよいでしょう。さらに、有害鳥獣捕獲報奨金(猟友会などへの奨励金)や、捕獲したシカ・イノシシを食肉処理施設に出す際の支援(ジビエ利用促進事業)など、間接的に被害軽減に繋がる支援策もあります。新規就農者の方はこうした制度を知らないケースも多いので、ぜひ情報収集して積極的に活用してください。補助を受ける際は事前申請と報告書提出が必要な場合がほとんどで、購入前に制度をチェックすることが肝心です 。


SNSやニュースで注目のトレンド・新技術



近年、SNSやメディアでも害獣対策の新技術が話題に上ることが増えてきました。特にICT・IoTを活用したスマート害獣対策は注目度が高く、自動通知型の監視カメラやAI判別システムなどが各種ニュースで取り上げられています。


  • AI監視カメラ・自動通知システム
    前述したセンサーカメラにAI解析や通信機能を組み合わせたシステムは、農家の「見回り」負担を劇的に減らす技術として脚光を浴びています。例えば、デンシン社が開発した「カメラ搭載IoT害獣監視センサー」は撮影画像をクラウドに送りAIが獣種を自動判定、結果をメール通知する仕組みです 。また北陸電力らが開発中の「害獣自動検出AI・Bアラート」は、高精度AIで必要な画像だけを検出しリアルタイム通報する試みで、クマ・サル・イノシシ・シカなど複数種の検出が可能とされています 。これらは農家や猟友会員のスマホに即座に警報を送れるため、「田んぼにイノシシが入ったらすぐ分かる」「クマ出没を自動監視」といった頼もしい見守り役となります。SNS上でも、実際に映ったイノシシの写真付き警報が共有され「○○地区に出没、注意!」など地域内で情報が瞬時に広がる事例が見られます。特に中山間地域では人手不足・高齢化で見回りが困難になっているため、こうしたテクノロジーによる遠隔監視は期待が大きいです。
  • スマートトラップ(IoT罠)
    こちらも先述しましたが、捕獲わなに通信機能を持たせた製品が各地で試験導入されています。「○○ゲート」「デジタルトラップ」など名称は様々ですが、仕組みとしては「獲物が入ったらセンサー反応→通信機で通知」というものです 。Twitter上では、罠メーカーやハンターが「遠隔見回りシステムで○○を捕獲した」「警報を見て駆けつけたら箱わなに大型イノシシが!」といった投稿をしている例もあります。中にはスマホアプリ連携で複数の罠を一括管理できるサービスもあり、捕獲の省力化に貢献しています。新技術好きの若手ハンターを中心に情報交換が盛んで、自治体も研修会でこうしたIoT罠を紹介するケースが増えています。
  • AI音響装置・ロボット
    AIによる自動判別はカメラ映像だけでなく音にも応用されています。たとえば農機具メーカーが開発した装置で、鳥の鳴き声パターンをAIが分析し害鳥(カラス等)が近づいたら自動で天敵の鳴き声を流すといった例があります。また、畑を自走して害鳥を追い払うロボット(鳥獣用ドローンの地上版のようなもの)も海外で実用化されつつあり、国内でも研究段階にあります。SNSでは「田んぼをパトロールするロボットかかし」などユニークな映像が話題になることもあり、将来的なトレンドとして注目されています。
  • クラウドサービスによる情報共有
    ハイテク機器だけでなく、インターネットを活用した情報共有もトレンドの一つです。各地の鳥獣出没情報や捕獲情報を地図上にプロットして関係者間で共有するクラウドGISの活用が進んでいます 。無料の地理情報サービスにデータを載せ、農家・ハンター・行政職員がリアルタイムで閲覧できるようにすることで、「どこで柵が破られた」「どの地域で被害発生」「どの罠で捕獲成功」といった情報を迅速に共有できます。広島県の取り組みでは、集めた目撃情報や捕獲地点、ドローンでの生息調査結果をGISで「見える化」しているとのことです 。SNSでも「○○市の鳥獣被害マップ公開」「リアルタイム捕獲マップ」といった取り組みが紹介され、他地域からも関心が寄せられています。

以上のような最先端技術は、まだ一部地域での試行段階とはいえ、ニュースやSNSで積極的に発信されています。若手農家やテクノロジーに詳しい担い手が情報発信することで、「電気柵+スマートカメラで被害激減した」「AIでシカ侵入を事前検知」といった成功例が広まりつつあります。読者の皆さんも、Twitter(現X)や農業系ブログなどで「#鳥獣対策」「#ICT農業」等のハッシュタグを追ってみると、最新のトレンドをキャッチできるでしょう。もっとも、機械任せにできない部分(最後は人間が駆除する必要がある等)も多いため、新技術はあくまで人手不足を補完し効率を上げる手段として位置付け、従来からの地道な対策と組み合わせていく視点が大切です 。


成功している現場事例


最後に、実際に各地で効果を上げている鳥獣被害対策の成功事例を紹介します。行政・地域・農家が一体となって取り組んだ先進事例からは、多くの示唆が得られます。


  • 岩手県奥州市:ICT活用と地域ぐるみ対策
    奥州市江刺地域では、高齢化と人口減少が進む中で持続的な鳥獣対策を目指し、「奥州市鳥獣被害防止総合対策協議会」が中心となってICT機器とデータ活用によるモデル事業を実施しました。具体的には、センサーカメラとドローンで害獣の生息・出没状況を調査しデジタルマップを作成、住民と情報を共有して地域全体で対策する仕組みを構築しています 。さらに、収集データを基に効果的な捕獲(わなの最適配置など)を行い、ゲート式囲いわなの遠隔監視・自動操作システムを導入するなど、スマート捕獲体制の整備も進めました 。研修会を開いて新技術の普及啓発にも努め、モデル地区での成果を市内全域・県内へ横展開することを目指しています。こうした取り組みにより、奥州市では鳥獣被害の発生件数が減少傾向を見せ始めており、住民の防除意識向上と若手の参加促進といった副次的効果も報告されています。
  • 広島県「テゴス」:県域支援組織と先端技術の実証
    広島県では県が主導して「広島県鳥獣対策等地域支援機構」、通称テゴスという中間支援組織を設立しました 。専門知識を持つフィールドアドバイザーが各市町の鳥獣被害対策を支援する仕組みで、市町村単位では難しい高度な技術導入を県レベルでバックアップしています。令和7年度からは、テゴス主導でICTを活用した包括的対策の実証に乗り出し、県内全域への技術普及を図っています。具体的な取り組みとしては、夜間飛行ドローンによる生息数調査、集落周辺の放任果樹や藪(潜み場)・柵破損箇所の空撮点検、通信圏外でも使える遠隔ゲート付き囲いわなの開発、サルの群れにGPS発信機付き首輪を装着して位置情報を自動配信するシステム、専門家が遠隔から現場へリアルタイム指導できる仕組み等、多岐にわたります 。これら先端技術の実証データはGIS上で「見える化」され、鳥獣被害対策関係者間で共有されています 。広島県内では、この仕組みにより自治体間連携が強化され、捕獲数の増加や被害減少といった成果が徐々に現れているとのことです。「県ぐるみで挑む鳥獣対策」として全国的にも注目を集める事例です。
  • 北海道別海町:広大地域でのヒグマ追い払いにドローン活用
    酪農地帯の北海道別海町では、ヒグマ(エゾヒグマ)の出没が近年深刻化しています。令和6年度には家畜(乳牛)が襲われる被害も発生し、市街地近郊までヒグマが現れる事態に対し、町は追い払いを原則とする方針で臨んでいます 。しかし非常に広大な町域を抱え、従来の人力だけでは緊急出動にも限界があることから、新技術による効率化が模索されました。その解決策の一つがドローンによるヒグマ追い払い実証です。2023年度、農水省のスマート捕獲・普及加速化事業のモデル地区に採択され、ドローンに音と光(おそらく威嚇音や強力ライト等)を搭載してヒグマを人里から遠ざける実験を行いました。また、わなの見回り業務に職員が休日返上であたる負担も大きかったため、わなセンサーの遠隔通知による見回り省力化も導入しています 。別海町の取り組みは、広範囲なエリアで人手不足に対応するモデルケースとして期待されており、実証結果次第では道内他地域やツキノワグマの生息する本州地域にも応用されるでしょう。

これら以外にも、全国には様々な成功事例があります。たとえば三重県いなべ市では、地域ぐるみで電気柵設置・捕獲・山林整備に取り組み、わずか数年で農作物被害額を300万円から0円にまで減らした例があります 。長野県辰野町のある集落では、耕作放棄地を利用した餌場作戦と箱わな集中設置でイノシシ被害を激減させた報告もあります。さらに、捕獲したシカ・イノシシのジビエ(食肉)利活用を促進し、駆除コストの一部を地域でペイできるようにした高知県や宮崎県の事例なども、「被害を減らしつつ資源化する」成功例として注目されています 。成功している地域に共通するのは、行政・地元住民・ハンター・有識者が協力し合い、多角的な対策を継続している点です。一度施策を行って終わりではなく、効果を検証し改善を重ねるPDCAサイクルを回していることも重要です。


野生動物との闘いは、一朝一夕で解決するものではありません。


各地で蓄積された知見や新しいテクノロジーの力によって、確実に道は拓けつつあります。農水省のデータが示す被害額は依然として高水準ですが 、その裏では多くの人々の創意工夫と努力が続けられています。個人農家や新規就農者の方々も、ぜひ地域の先輩農家や自治体と連携し、できるところから対策を始めてください。

効果的な害獣対策のポイントは「複数の手段を組み合わせる」ことです 。電気柵で物理的にシャットアウトしつつ、センサーカメラで動向を監視し、捕獲わなで個体数を減らし、必要に応じてドローンや花火等で追い払い、里山の環境整備や食べ残し撤去で餌場を断つ——こうした総合的な取り組みが被害軽減への近道です 。一人では限界がありますが、地域全体で知恵と労力を出し合えば、大きな成果が得られるでしょう。そして行政の補助制度や専門家の知見は遠慮なく活用し、最新情報にもアンテナを張っていてください。鳥獣被害は「ゼロ」にすることも不可能ではないと、各地の成功例が教えてくれています 。被害に悩むすべての農家の方々が、安全・安心に農業を続けられるよう、共に知恵を絞り実践を積み重ねていきましょう。



メガデル ロゴ

あなたの理想の農業設備を施工会社へ直接依頼

メガデルはビニールハウスなどの農業設備施工を実際に施工を行う会社に直接依頼できるサービスです。あなたの想い描く営農をサポートします。

会員登録・施工依頼を始める



出典:農作物被害状況:農林水産省
出典:鳥獣被害対策 自治体事例|有害鳥獣の出没をICTで把握、市町と連携して県域で対策、ドローン活用でヒグマ追い払い | 自治体通信Online
出典:鳥獣被害対策の現状を解説|減少しない理由や効果的な5つの対策とは | Mottoクラウドカメラ
出典:全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度):農林水産省
出典:アライグマによる農作物への被害と対策 | 農業いばらき
出典:鳥獣被害対策事例:農林水産省
出典:鳥獣被害対策に活用出来る機器情報:農林水産省
出典:害獣の自動検出AI・通報システム「Bアラート」( A001293): サービス
出典:野生動物・害獣対策にセンサーカメラと格安SIM神プランが最適な理由【2025年版】 - 【ロケモバBiz】法人向けSIMメディア
出典:広範囲なエリアでの効果も期待!鳥獣害対策ドローンの実証事業の取り組み | AGRI JOURNAL
出典:[PDF] 鳥獣被害対策におけるドローンの活用について - 農林水産省
出典:電気柵の購入費用はどれくらい?本体の目安や費用が変化する要素を解説–イノホイ オンラインショップ
出典:トレイルカメラ(センサーカメラ) | 鳥獣被害対策ドットコム
出典:鳥獣被害を防止する取組を支援します~ 鳥獣被害防止総合対策交付金 ~:農林水産省
出典:【電気柵 補助金】補助金を活用しよう!申請手順や押さえるべきポイントをご紹介 | 放牧と電気柵の情報サイト by ファームエイジ
出典:被害防止柵(電気柵等)の購入費用を補助します【令和7年4月1日掲載】/日高市ホームページ
出典:カメラ搭載IoT害獣監視・通知センサー&AI搭載ダッシュボードシステム - 株式会社電信
出典:地域×市×大学でのICT獣害対策進行中! ~福知山市スマートシティ推進事業 有害鳥獣捕獲~ モデル地区での地域主体の獣害対策で農作物被害を軽減