
2025年主要農業補助金・助成金の概要
執筆者:髙木 憂也
メガデル運営(株式会社タカミヤ)
農業経営には多額の資金が必要であり、国や自治体は様々な補助金・助成金制度を用意して農家を支援しています。特に施設園芸(ビニールハウス栽培等)、果樹農家、水稲農家向けには、スマート農業の導入や農業施設の整備、品種の転換、病害虫・自然災害対策、省力化機械の導入、販路拡大など、目的別に多彩な支援制度があります。以下、2025年時点で利用可能な主要な補助金・助成金制度について、提供主体(国・地方自治体・関連法人)、募集時期・申請方法の概要、活用事例や申請上の注意点と併せて解説します。
なお各補助金については、必ず政策元のWEBサイトなどをご確認ください。本サイトの情報と名称や詳細が変更されている場合もございますので予めご了承ください。
国による主な補助金・交付金制度
スマート農業技術・省力化機械の導入支援
国(農林水産省)は近年、AIやIoT、ロボット技術を活用したスマート農業を重点支援しています。例えば「農地耕作条件改善事業」の「スマート農業導入推進型」では、GPS誘導トラクター用のGNSS基地局設置や自動操舵システム導入など先端的な省力化技術の導入経費を定額補助します。
平地農地で経費の50%、中山間地域で55%補助され、スマート技術による農作業の効率向上や労働力不足への対策が図られています。
農林水産省|農地の整備また、IT導入補助金(中小企業基盤整備機構)は農業者も利用可能で、経営管理ソフトや販売管理システム等のITツール導入費用を1/2(条件次第で2/3)補助します。スマート農業機械の高額な初期費用を補うことで、小規模な個人農家でも最新技術を導入しやすくしています。
IT導入補助金 | 経営にお悩みの方へ | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構農業施設の整備・老朽化対策支援
国の代表的な交付金としては「強い農業づくり総合支援交付金」が挙げられます。これは生産から流通までの課題解決に向けた取組(施設整備や流通改革など)を支援する制度で、内容別に3つのタイプがあります。例えば「食料システム構築支援タイプ」では、生産者と需要者を結ぶ拠点事業者が中心となり、新たなサプライチェーン構築や大型施設導入を行う取組を支援し、大規模施設は年間最大20億円、機械等のソフト支援は年間5,000万円を上限に補助されます。
また「産地基幹施設支援タイプ」では、農産物の集出荷貯蔵施設や冷凍設備など産地の基幹インフラ整備に対し1/2以内の補助が行われます。施設園芸農家にとっては、老朽化した大型ハウスの建替えやパッケージセンター整備等に活用できる交付金です。これら国の大型事業は毎年募集が行われる傾向にあり(令和7年度募集は既に終了)、例年~初夏に公募されるケースが多いです。
さらに、「農地利用効率化等支援交付金」では、地域の農地集積(大区画化や団地化)に伴う機械・施設導入を支援しています。例えば融資主体支援タイプではトラクターやビニールハウス整備費用の一部を補助し、地域の営農改善計画の中で位置づけられた認定農業者等が対象となります。この制度は各地域ごとに実施状況が異なるため、自身の農業地域で実施されているか自治体に確認が必要です。
品種転換・高収益作物への転作支援水稲や果樹などで市場ニーズに合った品種への転換を図る場合にも、補助制度が用意されています。先述の農地耕作条件改善事業には「高収益作物転換型」という区分があり、収益性の高い作物への転作に必要な計画策定や施設導入を支援します。具体的には、高収益作物への転換プラン作成や栽培技術指導、農業機械リース料等が補助対象となり、経費の50%(中山間地域では55%)が助成されます。
例えば、水稲農家が飼料用米や園芸作物に転換する場合や、みかん農家が新品種へ改植する場合に、この補助を活用して計画策定から設備導入まで一体的に支援を受けることができます。加えて、政府の経営所得安定対策では、水田で飼料用米や麦・大豆等の「戦略作物」を作付けする取組に対し、水田活用の直接支払交付金が交付されています。
これは主食用米の需要減に対応し水田フル活用を図るための制度で、転作作物の面積に応じた定額の助成金が農家に支払われます。水稲農家にとって品種・作目転換時の所得減少を補填し、需要に見合った作物への移行を後押しする重要な制度です。
農林水産省|強い農業づくりの支援病害虫・自然災害対策支援
近年の気候変動に伴う異常気象や病害虫被害に対しても支援策が充実しています。農地耕作条件改善事業の「病害虫対策型」では、土壌改良や排水改良による病害虫発生予防を支援し、反転耕(土壌の深翻耕)や明渠排水の整備等の経費を定額助成しています(例:反転耕は10アール当たり35万円の補助単価)。また、自然災害への復旧支援として、大規模災害時には特別措置も講じられます。
例えば2019年の台風被害では、被災農家がグループで申請することで施設や機械の復旧費用の最大3/4を補助する「グループ補助金」が創設されました。施設園芸農家が台風でハウス倒壊の被害を受けた場合など、このような国の臨時補助金により高率の復旧支援が受けられます。
農林水産省|農地の整備果樹農家向けには、2025年度には各地で防災ネット設置の支援事業が展開されています。例えば千葉県の「果樹産地強靭化支援事業」では、雹害や台風による果実落下を防ぐ多目的防災網(防雹ネット等)の整備費用に対し1/4以内の補助が行われています。
このように国・県が連携し、気象リスク軽減のための設備投資にも助成金を活用できる体制が整えられています。さらに、農業共済や収入保険への加入促進も進められており、保険料の一部補助や無利子融資による資金繰り支援も併せて利用可能です(収入保険の保険料には国庫補助があり、負担軽減措置があります)。
千葉県|果樹産地強靭化支援事業販路拡大・経営強化支援
農産物の販売促進や新規マーケット開拓にも補助金が利用できます。中小規模の農業者であれば、小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)により販路拡大の取組費用を支援してもらうことが可能です。この制度では、経営計画に基づく新商品の開発や直販ルート開拓、PR活動などに要する経費の2/3(賃金引上げ等の特別枠では最大3/4)を補助し、通常枠で上限50万円、特別枠では上限200万円の補助金が出ます。ただし、農協等への出荷のみを行う農家は対象外となるため、自ら販路開拓に取り組む意欲ある経営体向けの制度です。
小規模事業者持続化補助金【一般型】|持続化補助金とは加えて、農林水産物・食品の輸出促進対策事業など、国は農産物の輸出拡大にも補正予算で支援事業を設けており、輸出用の選果機導入や海外向け規格認証取得費用の補助などが随時公募されています。施設園芸分野でも輸出需要を見据えた高品質生産への転換を図る産地には、強い農業づくり交付金等で設備投資やGAP取得の支援が行われています。
また、生産性向上や省力化と販路拡大を一体的に支援する例として、経営体の規模や創意工夫に応じた地方発の取組もあります。例えば千葉県では「園芸産地競争力強化総合対策事業」により、園芸産地での生産・流通コスト削減や省力化、高付加価値化に資する施設・機械の導入費用を1/2補助しています。このような施策を活用し、農産物の品質向上や商品加工・直販所整備を行った事例もあります。
実際に、補助金を活用して選果機や冷蔵設備を導入し、収穫後の品質保持と販路拡大につなげた果樹農家の成功例などが各地で報告されています(各補助金の交付機関サイトで事例集を公開している場合があります)。販路開拓系の補助金は商工系の機関(商工会議所など)が窓口の場合もあり、農業者でも条件を満たせば応募可能です。申請には事業計画書の提出が必要なため、地域の商工団体や農協と連携して計画を練ることがポイントです。
園芸産地競争力強化総合対策事業/千葉県新規就農者向けの特別支援策
個人で新たに農業を始める方には、経営が安定するまでの初期投資や生活を支える特別な補助制度があります。代表的なのが「新規就農者育成総合対策」で、この中に「就農準備資金」 「経営開始資金」 「経営発展支援事業」などのメニューがあります。経営発展支援事業では、新規就農後の経営発展に必要な農業機械・施設、果樹や茶の新植・改植導入等に対し最大1,000万円まで(経営開始資金と両方受給の場合は上限500万円)の補助が受けられます。
国と都道府県が連携して助成し、国費は事業費の1/2(都道府県の支援額の2倍)を負担します。対象は概ね50歳未満で独立就農した認定新規就農者で、人・農地プランで中心経営体と位置付けられていること等が要件です。この補助金を活用すれば、若手農家がトラクターやハウスなど高額な設備を導入したり、果樹園の造成を行ったりする際の自己負担を大きく減らせます。併せて、経営開始資金として就農直後3年間は年間最大150万円の交付金による生活支援も可能で、生活費に不安なく営農に専念できます。
さらに、青年等就農資金という無利子融資制度では、認定新規就農者に対し最大3,700万円(特認で1億円)を貸し付ける枠もあり、施設や機械導入資金に充てられます。日本政策金融公庫が扱うこの融資は据置期間最大5年・償還17年で、新規就農者の資金繰りを強力に支援します。新規就農支援策の申請窓口は市町村や都道府県となっており、就農前後でタイミングが異なるため早めの情報収集が重要です。
就農準備資金・経営開始資金:農林水産省初期投資への支援(世代交代・初期投資促進事業、経営発展支援事業):農林水産省
地方自治体・関連機関による補助制度
上記の国の制度に加え、地方自治体も独自の補助金・助成金を多数用意しています。都道府県や市町村の農業振興予算から、地域の実情に即した支援が受けられます。例えば施設園芸農家に対して、県レベルでスマート農業機器導入や省エネ設備投資を助成する例があります。
埼玉県の「施設園芸パイオニア技術推進事業」や愛知県の「施設園芸用燃油価格高騰対策支援金」など、環境制御装置や省エネ資材導入への補助、暖房燃料高騰に対する補填金交付といった制度が各地で見られます。
また、千葉県の「輝け!ちばの園芸次世代産地整備支援事業」のように、国の強い農業づくり交付金等を活用して県が公募を行い、地域の園芸産地の大規模ハウス整備や先端技術導入を支援するケースもあります。
県事業「施設園芸パイオニア技術推進事業」について - 埼玉県【受付終了】施設園芸用燃油価格高騰対策支援金について
「輝け!ちばの園芸」次世代産地整備支援事業※令和7年度事業の追加募集は終了
果樹農家向けには、先述の防災ネット整備のほか老朽園の更新補助(古い果樹を抜根して新品種に植え替える際の補助)を行う自治体もあります。自治体独自の支援策は、その地域の主要品目(例:○○県のブドウ産地振興補助金など)に焦点を当てていることが多く、補助率や要件も地域ごとに異なります。募集時期は年度当初が中心ですが、補正予算成立後に緊急対策事業として追加募集されることもあります。
情報は各都道府県の農業担当課や市町村の広報を随時チェックし、管轄の普及センターやJAを通じて入手するとよいでしょう。自治体の補助金は国の事業と連動している場合も多く、申請にはJAや行政を経由する形になるのが一般的です。なお、「独立行政法人」による支援としては、直接の補助金ではありませんが農畜産業振興機構(ALIC)による砂糖・でん粉等生産者への交付金や、中小企業基盤整備機構による設備投資補助(ものづくり補助金)などがあります。
ものづくり補助金は本来製造業向けですが、農業法人が6次産業化(食品加工や直販事業)に取り組む際に活用した例もあります。ただし要件や審査が厳しいため、該当する高度な取組を計画する場合に検討すると良いでしょう。
補助金の募集時期と申請方法の概要
募集時期は制度によって様々ですが、国の大型事業は毎年1回以上公募があります。年度当初予算で実施されるものは4~6月頃に一次募集が行われることが多く、応募状況によって二次・三次募集が夏~秋に追加される場合もあります。補正予算による事業は年末~年度末にかけて公募されることがあり、例えばスマート農業関連の緊急対策事業が令和6年度補正予算で秋口に募集されるといったケースも見られます。一方、地方自治体の補助事業は年度予算の範囲内で随時受付(先着順)か、または年1回の公募制になっています。
新規就農者向けの経営開始資金・発展支援は基本的に毎年度募集しており、就農予定者は市町村を通じて事前に応募手続きを進めます。申請方法は、多くの国補助事業の場合、まず都道府県や市町村、JA等に申請書を提出し、取りまとめた上で国に申請・交付決定となる仕組みです。強い農業づくり交付金などは産地の協議会や事業実施主体(JA・法人等)が申請主体となるため、個人で利用したい場合は所属する団体や普及センターに相談してプロジェクトに参画する形になります。
一方で持続化補助金やIT導入補助金のように、中小企業支援策として公募されるものは専用ウェブサイトから応募書類を提出し、中小企業団体(商工会議所など)の審査を経て採択となります。自治体独自の補助金は、市町村役場や県の地域振興局等が窓口となり、書類審査で交付決定されるケースが一般的です。いずれにせよ、申請には事前に事業計画や見積書の準備が必要であり、締切までに余裕をもって関係機関と調整することが重要です。
補助金活用事例と申請上の注意点
実際の活用事例としては、例えば東北地域の稲作農家グループがスマート農業導入型の補助を受けて自動運転田植機を共同購入し、作業時間を大幅短縮した例や、九州の施設園芸農家が園芸施設耐候化の補助で台風に強い強化ハウスを新設した例などがあります。果樹農家では、防災網整備補助金により防雹ネットを設置し、雹被害による収量減をゼロにできたといった成功談も聞かれます。補助金の効果を最大限引き出すには、自らの経営課題に合致した制度を選び、計画を練ることが大切です。
申請前の事前準備として綿密な事業計画書や収支見通しを作成し、申請要件を満たすよう工夫することが採択への鍵となります。また、過去の採択事例を参考にすることも有益です。各補助金の交付先一覧や事例集が公表されている場合は、どのような設備投資や取組内容が採択されやすいか学ぶことができます。例えばスマート農業実証プロジェクトの公表資料からは、どの地域でどんな先端技術が導入されたかが読み取れ、申請書作成のヒントになります。
注意点として、補助金は基本的に事後精算(後払い)である点に留意が必要です。いったん事業者が全額立て替えて事業を実施し、完了後に補助金額が支払われる流れが一般的です。そのため、着手前に資金計画を立て、場合によってはつなぎ融資を確保する必要があります。また、一つの経費について複数の補助金を重複利用することは不可とされています。例えば同じ機械購入費に国と県の補助を二重に充てることはできません。どの経費をどの補助で賄うか明確に区分し、重複申請は避けましょう。
さらに、補助事業で導入した機械・施設には一定期間の処分制限があります。勝手に売却・転用すると補助金返還を求められるケースもありますので、導入後も適切に維持管理し、所定の目的に使い続けることが求められます。新規就農者の経営開始資金などでは、給付後に一定年数農業を継続する義務が課されており、途中で離農すると返還対象となる点にも注意が必要です。
最後に、補助金は公的資金ゆえに書類手続きや事務作業も多く発生します。日頃から帳簿や経営記録を整備し、見積書・領収書など証憑類の管理を徹底しましょう。申請書類の不備や報告漏れがあると支給が遅れたり、最悪取り消しとなることもあります。わからない点は遠慮なく地域の普及員やJA担当者に相談し、サポートを受けると安心です。これらのポイントを押さえ、利用可能な補助金・助成金をしっかり調査・組み合わせることで、資金負担を軽減しながら農業経営の充実・発展を図ることができます。
補助制度を上手に活用し、スマート農業技術や新設備の導入、販路の拡大に取り組むことで、2025年以降の日本農業の競争力強化と持続的発展につなげていきましょう。
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出典:農林水産省|経営所得安定対策
出典:首相官邸|事業の再建について(台風関連支援)
出典:千葉県|生産振興課の主な補助事業
出典:農林水産省|補助事業参加者の公募
出典:全国新規就農相談センター|国の新規就農支援施策
出典:山形県|施設園芸用燃油価格高騰対策支援事業
出典:ものづくり補助金情報サイト|AI×農業で生産性向上!スマート農業の導入